隣街「異世界」 30

30 赤龍と公爵

隣街「異世界」_30

「オオガミ・ルイ殿、……大変驚くべき戦果でございますなっ! 誠に恐縮する次第でありますっ!!」

「いいえぇ、もう解決しましたので。とりあえず、山賊達の処分をお願いします」

「はいっ。後のことはお任せ下さいっ!!」
 山頂に、そろそろ朝日が差しかかる明け方に、先行して偵察にやってきた公爵領軍。
 その一陣の10数騎に、塁達は山賊を引き渡していた。

 領軍の騎士達は、山賊100名が光のワッカで拘束されながら、大いびきをかいて皆寝ているのを見て、とても驚いている。

「それにしても、……光魔法ですか。とても強力な魔法で、ただただ感心するばかりです」

 騎士達は、後続の本隊が到着後、山賊達を移動させるようだ。
 聞いた話では、公爵領軍も、今回が山賊を一網打尽にできる千載一遇のタイミングと見ていたらしい。

 公爵自らが指揮を執って領軍を進軍させていたら、キャンプ地から使いの者がきて、もう解決しましたと言われ、事実確認に10数騎を先行させてきたというワケだ。

 塁は、漸くこの長い夜が終わったと思い、ホッと胸を撫で下ろす。

「無事、上手くいって良かったですね」

「そうだね。フィルマさんもありがとう」

 そう言って、塁とフィルマはお互いに笑い合う。
 このままでは寝不足なので、もう一度寝直そうとフィルマに提案しようとしたところ。

「何だろ、あれ?」

 すると、山脈の先の方の薄紫色の空に、何か赤い点のようなものが見え、塁は即座に索敵レーダーを展開する。ここから数キロ先に、巨大な生体反応を確認できるのだが、……塁にとっては、まるで理解の範疇を超える存在のように思われた。

「赤龍だぁーっ!!」

 突然、キャンプ地に響き渡る、男性の叫び声。
 遥か彼方の空から、かなりの速度で巨大な赤龍が飛来するのが見える。

「キャァァァーーーッッ!!」

「にっ、逃げろぉーっ!!」

 慌てて逃げ惑う人々。次々と女性が悲鳴を上げ、男性が叫び声を上げ、……その場に何も言わずにへたり込んでしまう者もいる。

 キャンプ地は、もうパニック寸前。領軍の騎士達も、皆青ざめた顔をしていた。

 でも、塁は達観していた。上空から飛来する相手に、今更どこに逃げたらいいのかと。塁はどこか冷静な気持ちで、その様子を眺めていた。

 フィルマやぬゑさんと目が合うと、思わずニコリと笑い合う。
 斎木さんは、役に立つかワカらないライフルを一度装填し直して、ヨシッと呟いている。

 そんな塁の頭の中に、赤龍からのものと思われる念話のメッセージが、ひとつ届いていた。

『オオガミ・ルイ殿。我と、一度お目通り願いたい!』

 メッセージは、……確かにそう伝えている。
 塁は覚悟を決め、赤龍と話をすることにした。

   *          *

 しばらくすると、赤龍がキャンプ地の上空80メートル位に飛来し、ゆっくりと旋回を始めた。

 塁は光魔法を曳光弾のように上空に向けて放ち、赤龍をキャンプ地から少し離れた岩場まで誘導すると、龍は大人しくついてきた。とりあえず、人々から遠ざけることはできた。

 赤龍が着陸する。
 身の丈15メートルはあろうか? 

 両翼のある、……赤いティラノサウルスといった形状をしていた。
 塁はその威圧的なフォルムに、……思わず息を飲む。

「オオガミ・ルイ殿。お会いできて光栄である」

 すると、赤龍が穏やかな調子で挨拶をしてきた。塁は、翼の生えた恐竜が意外にも知性的なので、少しだけホッとする。

「こちらこそ、お会いできて光栄です。それにしても、私の名をどこでお知りになりましたか?」

「とある人物から、……とだけ、今は伝えておく。そのウチ、ヌエ殿からお訊きになればよろしかろう」

「ぬゑさん、……ですか?」

 塁は傍に立つぬゑさんをちらりとみると、眉間に皺を寄せて赤龍を睨んでいた。彼女はこちらの視線に気付くと、表情を変え、白い歯を見せてニコリと笑った。

 こういった表情をする時の彼女は、先ず間違いなく何も答えてくれない。塁は、まぁ今回もムリかなぁと思った。

「我は、ラスティ公爵との盟約により、ランブル山とロンギス大森林周辺に分散する山賊を追っておりました。だが、普段彼奴等は少数で散らばって行動して、……イタチごっこでしてな。それが今回、キャンプ地を狙って一斉に徒党を組んだため、我もそれを狙って一網打尽にしようとしたら、ルイ殿が見事捕まえて下さった。誠に感謝する次第である!」

「そうでしたか」

 すると、キャンプ地の方から、白馬に跨ったフルアーマー姿の者を囲むように、10数騎の一群がやってきた。どうやら、その白馬の者がラスティ公爵のようだ。

 後から公爵領軍本隊が100騎程やってくるとの話だったので、残りは今頃山賊達を回収する作業をしているものと思われる。

「赤龍殿、盟約をお守り頂き、誠に感謝する。して、……そこにおられるのは、オオガミ・ルイ殿でありますかな? おや、フィルマ殿、サイキ殿もご一緒か? はて、もう一人の女性はワカらぬでな」

 公爵は恭しく赤龍に頭を下げてから、こちらにニコリと微笑んだ。

「はい、私が大神塁です」

 塁もニコリと笑った。フィルマも斎木さんも笑顔だ。ぬゑさんも微笑んでいる。

「こたびは大変感謝いたしますぞ。巧妙に潜伏していた山賊どもを一網打尽にできたこと、大変喜ばしい限りですなっ!」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる公爵。

 赤龍とラスティ公爵家との間には、代々公爵領を守るという秘密の盟約がある。
 今回もまた当主フルボ・ラスティ公爵の要請を受け容れ、赤龍は、遥か上空から山賊の動きを監視していたのだそうだ。

 獰猛な山賊達が、今回群れを成しており、非常に危険だ。多少の犠牲も止むなしとしていたところ、……。
 そこに、塁達一行が颯爽と現れるや、あっという間に解決してしまったワケだ。

「オオガミ・ルイ殿。貴殿らを我が屋敷にご招待したい。これだけの功績に報いさせて頂けないだろうか?」

「えぇ、ぜひ。喜んでお受けいたします」

 ニッコリ笑顔の塁に、公爵もホッとした顔をする。

「フィルマ殿、後で詳しく話をお聞かせ願えるか?」

「えぇ、もちろんです、公爵閣下」

 フィルマに塁が後で聞いた話では、フィルマと公爵は同じ王党派の幹部として、ツーカーの関係にあるらしい。塁のことについては、王命による極秘事項につき、公爵には事前に知らせていなかったようだ。

   *          *

「ならば、フルボよ、我がルイ殿とお主らを運んでいこう! なぁ~に、ここから公爵邸まで、空でいけばひとっ飛びだ。ルイ殿も、それで如何だろうか?」

「ぜひっ、よろしくお願いしますっ!」

 塁は、赤龍の提案に、思わず目を輝かせる。
 塁達の荷物やSUVは、既に収納魔法で全てしまってある。

「フルボよ。我は本日只今を以て、オオガミ・ルイ殿の傘下に入るものとする。ラスティ家との盟約は、これまでどおり続けるので、問題なかろう?」

「了解した。オオガミ・ルイ殿は、それ程までの人物ということか。ならば、なおさらルイ殿を我が屋敷にて丁重にもてなす所存だ!」

 公爵の言葉に、塁の傍にいるフィルマとぬゑさんがニコニコと笑顔で頷いている。

 塁は、自分が何故こちらの世界にきてからというもの、あちこちで特別扱いを受けるのか不思議でならなかったのだが。でも、良い扱いを受けるだけの実績は作ってきたしなぁ。

 コエダ村のゴブリン討伐。ホランド渓谷でのオーク討伐。ルーシーの左手を再生したり、ここランブル山では山賊討伐をしたり、……。

 うん。かなりの実績だよね。

 赤龍が巨体を屈めてきて、背中に乗り易いようにしてくれた。
 さっそく塁が背に乗ってみると、……赤い8センチ程の大きさの艶のある鱗が、無数に張り巡らせていることに気が付いた。

 凄い存在感だな。思わず感心しながら撫でてみると、ひやりとした触感で、つるりとしている。
 塁達一行と共に、ラスティ公爵と彼の長男も同行する。

「では、出発いたすぞ!」

 ゆっくりと羽ばたきながら、その巨体は宙に舞った。
 いつしか、山頂から数10メートル上空に上がり、そのまま滑空するように麓の公爵邸まで進んでいく。

 赤龍の背に乗って見る景色は、格別だった。
 思わず感心して眺めていると、公爵が塁に話しかけてきた。

「私も、若い頃は翼竜に乗って戦に参加したことがありましてな。こうしておると、若い時分の気持ちが沸々と蘇るような気がしますな」

「それは凄いですね。私のいた世界では、空軍が設立されたのはここ100年ってところですからね。公爵は空の男なんですね。憧れちゃうなぁ」

 塁は、さすがはファンタジー世界だと、思わず感心する。

「ハハハ、それ程でも。オオガミ・ルイ殿、……貴殿の名前から拝察するに、セタ王と同郷であるのか?」

「はい。王の招きで、向こうの世界からやって参りました」

「なるほど」

 ラスティ公爵は、塁の話の断片をほんの少し聞いただけで、何か勘付いたように長男に目配せすると、長男も頷いていた。

隣街「異世界」_30_01

   *          *

 塁達一行を乗せた赤龍が公爵邸に到着すると、屋敷から次々と恐怖で叫び声が上がった。
 そんなパニック状態の最中、ラスティ公爵は飄々とした様子で、笑顔でようこそ我が屋敷へといって、塁達を歓迎した。

 赤龍は、先程よりぬゑさんと何か念話で話をしている様子だったが、……どうやら、もう話は済んだようだ。

 公爵は赤龍に盟約のとおり、我が領を今後もお守り願いますというと、赤龍もよかろうといって同意する。

「ルイ殿、何かあれば、直ぐに我をお呼び下され!」

「ありがとうございました。空の旅、とても楽しかったです」

「それは良かった。では、これにて」

 そう言って赤龍は塁に頭を下げると、ふわりと巨体を浮かせ、直ぐに空の彼方に消えていった。
 もうここは、王都と目と鼻の先だ。

「それではルイ殿。我が屋敷にご案内しよう!」

 ラスティ公爵邸で歓待を受ける塁達一行。
 公爵の長男が、塁のことをとても気に入ってくれたようで。

「ルイ殿、ぜひ我と友人になって下さい!」

 そう強く願い出た。武人然とした風貌の、若武者の雰囲気を持った人物だ。

「えっ、えぇ、……喜んで!」

 思わず勢いに飲まれて承諾すると、塁の両手をシッカと握って喜ぶ長男。

「皆の者、聞いてくれっ! ルイ殿は、我が家の守り主である赤龍を従える、凄いお方だ!」

 そう言って、屋敷の者に向かって塁のことを絶賛する。

「いえいえ、……そんな、特別扱いは要りませんので!」

 そう言って、丁重にお伝えした。

 公爵も、長年懸念だった山賊を残らず捕縛できてホクホク顔だ。
 晩餐は、侯爵の時よりも更に豪華だった。

 公爵には娘はいなかったが、息子達が塁の異国の話に興味津々。
 もうしばらくの間、公爵邸で過ごすことになりそうだなぁと塁は思った。

   *          *

 ライトノベル『隣街「異世界」』の連載30回目です。
 山賊退治を終えてホッとしたところに、今度は赤龍が飛来してきました。

 塁達一行が赤龍と接触していたところ、公爵領軍本隊の到着です。山賊を引き渡した後、一行は赤龍の背に乗って、麓の公爵邸までひとっ飛びです。

 もちろん、公爵邸で、塁達は大歓迎を受けるのでした。
 どうぞヨロシク!

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

カレンダー

03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -

プロフィール

西洋司(セイヨウツカサ)

Author:西洋司(セイヨウツカサ)
アニメーションやイラスト、小説、
特にライトノベルが大好きです。
アニメコミック系のイラストの他、
オリジナル小説を投稿いたします。
どうぞヨロシクね!
https://www.pixiv.net/users/76914357
https://novelup.plus/user/998510417/profile
https://twitter.com/seiyo_tukasa

※作品の進捗などの最新情報は、
 X(旧Twitter)を参考にして下さい。

最新記事 (サムネイル付)

ステーブルディフュージョン 218 Apr 23, 2024
ステーブルディフュージョン 217 Apr 22, 2024
ステーブルディフュージョン 216 Apr 21, 2024
ステーブルディフュージョン 215 Apr 20, 2024
隣街「異世界」 33 Apr 19, 2024

アルバム

全記事表示リンク

検索フォーム

QRコード

QR